要点まとめ
- 空き家の庭木が隣地に「越境」していると、被害が出た場合は所有者に責任が発生することがある(損害賠償の可能性)。
- 2023年(施行は2023/04/01)に民法第233条が見直され、一定の条件のもとで越境した枝を被害側が切除できる場合が明文化されました(催告→放置/所有者不明/急迫時など)。
- 「空き家だから放置して良い」は誤り。空き家の管理不備は行政指導や固定資産税の特例除外につながることもあります(空き家対策関連法)。
- 実務では、まずは記録(写真・動画)→隣人への催告(書面)→業者依頼 or 弁護士相談の順が安全です。
(以下で法的背景、事例、実務的ステップ、費用、文例、FAQまで徹底解説します)
空き家の「越境」とは何か?放置するとどんな問題に発展するのか
「越境」とは:隣地の木の枝や根が境界線(敷地線)を越え、あなたの敷地内に侵入している状態を指します。枝が屋根に接触したり、落葉で排水溝が詰まる、根が塀や配管を押し上げる──といった物理的被害から、日照権や景観の悪化、落葉による清掃負担などの生活被害まで幅があります。
空き家だと放置されやすい理由
- 定期的に見回る人がいない → 樹木が大きくなりやすい。
- 所有者の所在不明や高齢化で対応が遅れる。
- 売却・相続で手続きが停滞しているケースが多い。
放置の代表的なリスク
- 隣家の屋根・雨樋・電線への接触 → 修理費・賠償の発生。
- 落ち葉・枝による衛生・景観被害 → 近隣クレーム。
- 台風・大雪で倒木・落木→ 人身・物損事故の危険。
こうしたリスクは「誰が責任を負うか」を問われる場面になります(後述の民法や不法行為に関する規定が関係する)。
法律編:越境樹木は違法? 民法233条の改正ポイント
結論:越境そのものが直ちに“刑事罰になる”わけではありません。ただし、越境が原因で他人に損害を与えた場合は民事責任(損害賠償など)が発生し得ます。さらに、2023年の民法改正で「越境枝の切除ルール」が明確化され、一定条件下で越境枝を被害側が切ることができる旨が整備されました。
民法第233条(要点)
- 原則:隣地の竹木の枝が境界を越える場合、越境された土地の所有者は、その竹木の所有者に枝を切除させることができる。
- 改正で明確化された例外(自分で切ってよい場合):
- 所有者に「切除を催告」したが相当期間内に切除されないとき。
- 所有者がわからない、あるいは所在が不明のとき。
- 急迫(台風で折れそう等)など緊急の事情があるとき。
- 根について:越境した根は切り取ることができる旨が明確に規定されています。
※「竹木」とは法律上の表現であり、一般に庭木もこれに含まれると考えて差し支えありません。実務では「木」として扱われることが多いです。
被害側が自分で切るときの注意
- **催告(連絡)**は原則的なステップです。書面で残すと後で証拠になります。
- 切除した後の切った枝・幹の処分や、切除による木の衰弱・枯死が発生した場合の責任の所在は微妙なので、事前に文書で「切除して処分する」旨を明記しておくと安全です。
実例で見るトラブル──放置すると起きること
ここでは典型事例を3つ紹介します。どれも現場レベルで起きやすく、放置が原因で泥沼化します。
事例①:枝が屋根に接触 → 雨漏り・修理費請求
状況:空き家の大木の枝が隣家の屋根に接触。強風でさらに損傷が拡大し、雨漏り発生。
結果:隣家が修理費を所有者へ請求 → 協議が不調で損害賠償訴訟に発展するケースあり。裁判では「過失(管理不備)」が問われる。
事例②:落葉で側溝詰まり → 近隣から清掃負担で苦情
状況:落葉が頻繁に側溝にたまり浸水被害寸前に。
対応:日常清掃の負担を巡り近隣トラブル化。行政相談に発展する場合も。市は民事問題であるため直接伐採はしないが、放置空き家に対して指導や勧告を行うことがある。
事例③:台風で倒木 → 車両破損・人的被害(高額賠償)
状況:台風による倒木が隣家の車両や電線を直撃。
結果:修理費・保険対応・場合によっては高額賠償が発生。倒木事故は重大な損害に繋がり得るため、空き家管理義務が問われることがある。
まずやるべき“現場対応”ステップ
トラブル回避・証拠構築のための最短手順を示します。できればスマホで撮影→書面で催告まで一気に行ってください。
ステップ0(緊急時)
倒木や今すぐ危険な状態(折れそうな枝、垂れ下がった電線等)がある場合はまず安全確保。人的危険があるなら消防や関係部署に連絡。緊急性ありと判断される場合、民法の「急迫の事情」に該当して自ら切除できるケースがありますが、安全と法的リスクを天秤にかけて判断してください。
ステップ1:現状記録(写真・動画・日時)
- 越境状況を全方位から撮影(全景→越境箇所→接触・損傷箇所のクローズアップ)。
- 写真は日付付きで保存(スマホのメタデータ)。動画で状況説明を撮ると説得力あり。
ステップ2:所有者を確認(固定資産台帳・登記)
- 所有者の氏名・住所が判る場合は登記簿(登記事項証明書)で確認。遠方で対応が困難なときは相続や名義問題が絡むケースもあるため注意。
ステップ3:まずは口頭→書面で催告(必ず書面で残す)
- 電話や訪問の後、必ず書面(内容証明が望ましい)で催告。催告は「いつまでに切除するか」を明確に記載。証拠として残ることが重要。
- 文例は後述(章9)でテンプレートを用意します。
ステップ4:対応がない/所在不明なら行動
- 相手が対応しない・所在不明のときは、自ら切除(切り取り)できる要件の該当が検討されます(民法233条3項)。ただし、作業にともなう他の法令(高所作業・隣地への立入り)や安全面を考慮し、業者に依頼するのが現実的かつ安全です。
ステップ5:切除後の費用回収・証拠保全
- 切除費用は原則として実行者(被害側)がいったん負担する場合が多いが、催告→放置だった場合は所有者に請求できる余地がある(民法上の不法行為等に基づく)。請求する場合は弁護士相談を推奨。
自分で切って良いのか? 剪定・伐採のルールと注意点
自己判断で枝をバッサリ切るのは法的・安全面でリスクがあります。ここでは「自分でやる」「業者に依頼する」の判断基準と注意点を示します。
自分で剪定してもよいケース
- 高さが低く危険が少ない枝(脚立で安全に作業できるレベル)。
- 切る部分が明らかに越境している場合で、催告済みで相手が対応せず、相当期間経過しているケース(民法233条3項1号に該当)。
自分でやるときの注意点
- 隣地に無断で立ち入らない(必要最小限の範囲での立入は民法上認められる場合があるが、事前に通知・承諾を取るのが安全)。
- 作業後は切断箇所の状態を写真・動画で記録する。
- 切った枝は原則「元の所有者の物」なので、処分する場合は事前に明記しておくとよい(催告書で明記)。
業者に頼むべきケース
- 高木(5m以上)・電線付近・クレーンや高所作業が必要なとき。
- 根っこの抜根が必要、根が塀や配管を損傷していると疑われるとき。
- 所有者と連絡が取れない、民事トラブルを避けたいとき。
業者に頼む場合の費用相場と見積りチェックリスト
費用は木の高さ・太さ・場所(住宅密集地かどうか)・処分の有無で大きく変わります。下記は一般的な目安です(業者・地域で差あり)。
伐採・剪定の相場(目安)
- 剪定:低木(3m未満) 2,500〜5,000円/本、中木(3〜5m) 7,000〜15,000円/本、高木5〜7mで13,000〜25,000円程度。
- 伐採:低木(0〜3m) 4,000〜7,000円、中木(3〜4m)10,000〜13,000円、中高木(4〜5m)20,000〜30,000円、高木(5〜7m)30,000〜50,000円〜、7m超は見積もり。
- 抜根:1本あたり11,000円〜(根の太さにより増減)。
- 廃材処分費:別途請求が一般的(3,000〜20,000円程度の幅)。
※上記はあくまで目安です。必ず複数社から見積りを取ること。大木や危険作業は保険加入や作業員の経験を重視してください。
見積りチェックリスト(業者選び)
- 伐採・剪定・抜根・廃材処分の内訳が明確か?(作業時間・人員・処分費)
- 高所作業・重機使用の 安全対策(保険・資格) が確認できるか?
- 近隣への配慮(養生・騒音時間帯・当日立会い)についての説明があるか?
- 見積りは**書面(内訳明記)**で提示されるか?
- 作業後のクレーム対応(保証)はあるか?
空き家所有者におすすめの再発防止策
空き家の樹木越境を根本的に防ぐには「管理計画を持つ」こと。以下は実務的な選択肢です。
定期管理(コストを抑えたい場合)
- 年1回〜2回の定期点検・剪定(年1回で軽度の予防、年2回でより安心)。業者契約で年間パッケージを組むと割安になる場合が多い。
管理代行サービスの活用
- 空き家管理サービス(見回り・通報・簡単な清掃・剪定手配)を月額で委託する方法。遠方所有者に便利。
売却・活用・解体の検討
- 長期で管理コストがかかる場合は売却・活用・解体も検討。空き家のまま放置すると固定資産税特例除外や行政勧告の対象となる場合があります(空き家対策関連)。
隣人とのコミュニケーション
- 事前に隣人へ管理方針を伝えておくとトラブルの芽を摘めます。信頼関係が再発防止に強力に寄与します。
役所や行政はどこまで関与する?
空き家に関連する行政対応は基本的に民事問題が主体ですが、放置が地域住環境を脅かす場合には市区町村が立入調査や助言・指導、最終的には勧告や命令に至ることがあります。空き家等対策の仕組みについては国や自治体の資料で説明されています。
行政ができること
- 所有者に対する「助言・指導」 → 改善要請。
- 指導に従わない場合は「勧告」→ 最終的に命令や行政代執行(解体等)につながることがある。
- ただし越境樹木そのものの伐採を市が代行して行うことは原則できない(民事問題であるため)。自治体のページはこの点を明確にしています。
サンプル文例:催告書(隣人宛)/メール文/業者依頼テンプレート
以下は使える実務テンプレート。内容証明郵便で送ると証拠力が高まります。
A:催告書(書面・内容証明向け/簡潔型)
〇年〇月〇日
(相手方) 住所/氏名 様
(差出人) 住所/氏名 様
貴宅の庭木(樹種:〇〇)につき、当方敷地(住所:〇〇)へ枝(根)が越境しており、(〇月〇日撮影の写真添付)当方の敷地・住宅に損害が発生するおそれがあります。つきましては、△△(例:20XX年〇月〇日)までに当該越境枝の切除を行っていただくか、業者による伐採の日程をご連絡ください。
期間内に対応がない場合は、やむを得ず当方にて切除等の必要な措置を実施し、費用を貴殿に請求する場合がありますのでご承知おきください。
連絡先:電話/メール
(写真ファイル名)
以上
(催告期限は「相当期間」を入れてください。事情により7〜14日程度が多いです)
B:業者依頼テンプレ(見積り依頼メール例)
件名:樹木剪定/伐採の見積り依頼(住所:○○)
本文:
お世話になります。下記のとおり伐採/剪定の見積りをお願いいたします。
・作業箇所:○○市○○町(写真添付)
・樹木の高さ:およそ〇m
・希望作業:越境枝の剪定・伐採・抜根の有無
・希望日程:第1希望~第2希望
・廃材処分:有・無(希望)
・現地立会い:あり/なし
返信に際して、内訳(作業費・人件費・廃材処分費)を明記ください。
---
連絡先:氏名/電話/メール
よくある質問(FAQ)
- 越境している木を隣人が勝手に切ってもいい?
-
原則は「まず切除させるよう求める」ことが必要。催告後も対応がなければ被害側が切除できるケースがありますが、事前に書面で催告することが安全です。
- 切除費用は誰が負担する?
-
原則は切除を行った側が一時負担するケースが多いですが、催告しても対応がない等の事情があれば、後に所有者に請求できる可能性があります(民法上の不法行為等を根拠に)。請求する場合は証拠が重要。
- 市区町村に頼めば伐採してくれる?
-
一般的に市区町村は民事問題(相隣関係)について直接伐採することはできません。ただし、放置空き家が地域生活環境に重大な影響を与える場合は、助言・指導・勧告等の行政手続を行います。
- 所有者不明の空き家の樹木はどうする?
-
民法233条は「所有者不明の場合に切除できる」と規定していますが、実際には所有者探索(固定資産台帳・相続調査)→催告の記録→業者対応という手順を踏むケースが多いです。見つからない場合は市区町村に相談することも検討。
まとめ
空き家の樹木越境は「放置してよい問題」ではありません。早めの記録・催告・適切な業者対応が最も安く、かつリスクを減らす方法です。具体的には、
- まず写真・動画で現状を記録(日時を必ず残す)
- 相手の所有者を確認→書面で催告(内容証明がベスト)
- 業者見積りを複数取り、安全に伐採(高木は絶対に専門業者)
- 費用請求や法的措置が必要なら弁護士へ相談
民法233条の改正で被害者側の自己救済がやや容易になりましたが、安全と後の法的リスク回避のために「記録」と「文書」の手順を踏むことが肝心です。
空き家の樹木の越境リスクが気になる方へ
空き家の近隣トラブルで樹木の越境問題は特に多いトラブルの1つです。どのような対策が必要なのか?など気になる点がございましたら以下のページからお問合せください。
越境した樹木で隣人にケガを負わせてしまったなど大きな問題になる前に早めに防止対策などを行いましょう。